『海上護衛戦』について



 
このテキストは当サイト開設当初に書いたものを修正したものです。


お奨め戦記本
海上護衛戦です。
(朝日ソノラマ文庫です。最近また再版されたようですが・・・)

私は自他共に認めるであろう『ミリタリーヲタク』である。
残念ながらマニア と呼ばれることはない。実に狭い範囲でしか知識が無い為、ヲタと呼ばれる。私の狭く、そして少ない知識が『太平洋戦争』である。それも海軍のみ・・・ 艦船と航空機に魅せられたゆえであろう。
そんな私に今まで数多くの書籍が影 響を与えてきた。
そのベスト3が

連合艦隊の最期
彗星夜戦隊

そして
海上護衛戦である。
(実に偏ったラインナップだ)

前回のゲームネタに関しもっとも関係のある本が最後の海上護衛戦である。おそらく本屋で一般に売られている本のなかで最も重要な本にあたるだろう・・・と思っている。

つまり如何に日本が負けたか。
如何にずさんな戦い方をしたか。
如何に戦争指 導者なき、責任者なき、行き当たりばったりの、無秩序な戦い方をしたのか。

という根本について書かれている。
ここまで来ると何故戦争をしたかという話にもなってくる。もともと戦争など しても勝ち目はなかったのだと・・・。それは分る。多少なりとも正しい知識 があればアメリカ相手の戦争に勝ち目なぞなかったことぐらいすぐに分る事だ。
しかし戦争になった。理由はいろいろある。だが戦争になったとたん何故ああ もずさんな戦い方をしたのだろう。
個々の戦闘ではない。国家戦略、または最 高戦争指導者無き戦いのことだ。あまりにもひどいのである。
これが世界第3位の海軍国家の戦争なのかと嘆きたくなるぐらいに・・・

いろいろ戦史本は存在する。最近では仮想シミュレーション小説なるものもある。これも荒唐無稽なる本がいっぱいあるが、まぁ今回はここでは語らない。 私も好きだ。次回にでもネタにしたいと思う。
そんな数ある戦史本の中でも太平洋戦争に関する文献に少しでも興味ある人は ぜひ読んでもらいたい一冊である。

以下にやっと本の内容です。



この本は戦後間も無い昭和28年に出版されている。著者大井 篤氏は戦時中、海軍の護衛に関する事実上の最高司令部『護衛総司令部』に所属し、主に 海上護衛に関して勤務ていた。
当時、軍は大本営と呼ばれる組織がトップ組織として天皇を補佐し戦争指導を 行っていた。この組織は陸軍と海軍に分かれ、別々に指導されたのだが南方占 領地からの資源輸送に関する統一司令部はおろか、海上輸送およびその護衛、 果ては輸送というものに対する知識にいたるまで見事に欠落していたのである。
皆なんとなく確保したものを運べばいいと思っていたがそれが如何に重要で難 しく困難なことだと理解していなかったのである。
いや知識としては知っていたかもしれない。しかし具体的にどういうものかとなると誰も知らないのであ る。そう、極一部の人々を除いて・・・
著者は開戦前から護衛に関しての業務に携わっていた。しかし上層部は華々し い作戦やら決戦やらに夢中で誰もこの問題を真摯に考えるものはいない。

開戦時軍令部にあって護衛作戦を担当していたのは第12課であった。しかし 軍令部は第1課(作戦課)以外は軍令部にあらず、などという風潮があり護衛 に関して軽視される風潮があった。
最初はそれでも勝っていたため、さして問題は表面化しなかった。しかしソロ モン方面で激戦を繰り返し、お互いの戦力が均衡していた頃からだんだんと悪 化してくる。ついにこれではイカンと海上護衛総司令部(護衛総隊)なるものが出来る。
実戦部隊のトップ組織である連合艦隊と同格の上級司令部であり、海軍に2大戦略ありと言わしめた。
しかし内情は御粗末な限りであり、有 力な戦力・航空機・艦艇はほとんど連合艦隊所属であった。実際、護衛しろだのと煩く言ってくる政府に対して厄介払いをすべく護衛部隊を独立させたとい うのが実情であった。
しかし任された以上やらねばならない。護衛司令部の作戦参謀であった著者はあらゆる手を使い護衛作戦を行っていく。
海軍も、陸軍も、そして政府もやれ重油を運べ、鉄鉱石を運べ、あれもこれも持って来いという。
他に統括する組織がないのだから全て護衛総司令部だ。
その上商船は慣 れない船団を組まされて効率が落ちるのを嫌いさっさと1隻で出航してしまう。
そして潜水艦にやられる。それでも構わず出航してしまうのである。
護衛側も 護衛艦をつけて船団を組みたいのだが艦が連合艦隊に取られ、老朽艦が少しし かないのである。

この本では華々しい戦闘とは無縁である。著者自身血湧き、肉踊らざる戦記というほどである。全編を通して軍各部との交渉であり、日本のあらゆる欠点 との戦いであった。
艦もなく、折角育てた対潜水艦用航空部隊も連合艦隊司令部からの電話1本で取り上げられる。
そして最後は大和の特攻作戦である。あの戦艦大和の沖縄に向けての海上特攻であるが、一般的に片道分の燃料だけを積んでの悲壮な特攻作戦として知られ ている。
しかし実際には多少違うのである。たしかに司令部からの指示は片道 分であったが、各燃料工廠の担当官は話を聞き折角の大和が出撃するのに片道 分だけとは申し訳無いとし、帳簿外の燃料を融通したのである。
これは一般に 人情美談として語られる事の多い話だ。実際大和は半分、巡洋艦が6割、駆逐 艦は満タンで出撃したのである。
さて、問題はこの話の裏側である。何処から 燃料を融通したのであろう。当時は国中が燃料不足でB29を迎撃すべき航空機 さえガソリンがなく飛べない有様であった。帳簿外の燃料とはタンク内のポン プではくみ上げられない底の余り分。
では司令部の指示した片道分とは・・・
これが護衛司令部に割り当てられる予定の燃料であった。
昭和20年4月分に何とか割り当てられた7000トン分のうち4000トンを取り上げられたの である。これらの燃料は本土決戦前になんとしても運び込まねばならない最後の重要物資とその護衛に必要とされる燃料を最低限に見積もった上でのギリギ リの量であった。
しかしそれらを取り上げられては護衛計画は崩壊である。
このことを護衛総司令部の著者に伝えた連合艦隊司令部の護衛担当参謀は作戦にあたって発表された訓令を著者に伝えている。
『・・・ここに海上特攻隊を編成し、壮烈無比の突入作戦を命じたるは、帝国 海軍力をこの一戦に結集し光輝ある帝国海軍水上部隊の伝統を発揚すると共に、 その栄光を後世に伝えんとするに外ならず。』と・・・
これが訓令全文の要点 であった。
そしてこれを聞いた著者は一部で伝説的な名言となっている文句を言った。
曰く『国をあげての戦争に、水上部隊の伝統がなんだ。水上部隊の栄光がなん だ。馬鹿野郎』である。
そして大和は沖縄に逝った。何もなすことなく沈んだのである。
この本は日本の、日本人のあらゆる欠点ともいうべき官僚主義や目先の華々し さに目を奪われ、本来日本を守るべき道具であるはずの連合艦隊をこそ主役に してしまう本末転倒の結果などが記されている。
如何にずさんな戦い方をしたか、太平洋戦争に多少なりとも興味のある人でま だ読んだ事のない人はぜひ読んでほしい。
いや、この本を読まずして太平洋戦争を語ってはいけないとさえ言える本である。






追記
このテキストですが・・・自分でも分かりすぎるほど偏ってる内容だというのはよ〜く分かってます。それでも・・・それでもぜひこの本は読んで欲しい。もっとも興味がない人にはとてつもなくつまらなく、退屈な本だとは思いますが。それでも多少なり興味ある人には読んで欲しいものである。